鬼哭く夜に降り立ちぬ

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  その後、単線の電車に揺られる事およそ一時間弱。 二人が降り立った場所は、この辺りでは一番の繁華街であろうと思われる商店街が軒を連ねる駅前通り。 ただ、若者がコンビニの前でたむろしているような都会的なイメージではなく、床屋の看板や洋服の仕立屋に貼られたポスター、バス停ひとつ取ってもレトロな感じが漂っている。 「まるで昭和だな、真崎」 真崎もこの香取の言葉には素直に同意する。 「です……ね。あのポスターに写ってる俳優さん、先月老衰で亡くなった方ですよね? あんな若い頃の写真。いったい何年前の物やら……私もさすがに予想以上でしたよ。 あ、でも逆に希少価値高そうな物ばかりの光景ですよね」 真崎はふふっと笑って、鞄から手帳を取り出した。 「さて……。とりあえずメールの投稿にあった喫茶店は……と」 周りをキョロキョロ見渡す真崎を尻目に、香取の視線が色褪せたデザインテントを捉えた。 「あれだろ? 喫茶ニュー銀座」 「あ、そうですそうです。喫茶ニュー銀座。そこでメールくれた女の子が待ってるはずなんで……あれ? どうしたんです? 先輩」 笑いをこらえている香取の肩が小刻みに揺れた。 「いや。凄ぇネーミングセンスだよなぁ、と思ってさ。よりによってこんな田舎で新銀座ねぇ……何を思って名付けたんだか、銀座要素が何一つありゃしねぇ……ま、嫌いじゃねぇけど」 香取は吸っていた煙草を靴底で揉み消した。 「よし! じゃ、早速行ってみるかぁ」 「あっ!! 待って下さいよ、先輩~!」 真崎は、香取が捨てた煙草の吸殻を改札脇の灰皿に捨てると、すたすたと歩く香取の後を慌てて追いかけた。
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