鬼哭く夜に降り立ちぬ

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  その夜。 恵の言葉に甘える形となった二人は、恵の自宅で時が来るのを待った。 「宿代が浮いて良かったなぁ。あ、ところで、真崎……『憑鬼』って何だ? 聞いた事ないんだが」 恵の入浴中、リビングの隅の窓際で正座している真崎とは対照的に、ソファーの上で横になりながら香取が口を開いた。 「先輩ったら、そんな言い方……全く……。 例の恵さんの写真。私も気になったんで、事前に少し調べておいたんです。『憑鬼』は俗に言う鬼の一種で、人間の怨念や嫉妬が具体化されたモノ。何かを依り代にして鬼の形を成すらしいですよ。鬼としては低級な部類に入るらしいんですけどね」 「へぇ~。さすがだな、真崎。全然知らなかったわ、俺」 「もう! 行き当たりばったりで取材するの辞めましょうよ。先輩は現場につくまで何もしないんですから……まぁ、大分慣れましたけど」 「こんな業界に長い事いるとな、自分の目で確かめないと気が済まない性分になってくるってもんさ。それに、事前調査の先入観が邪魔して真実が見えない事もあるんだよ」 窓の外を眺めていた真崎が振り向き様に肩をすくめる。 「確かに……先輩の直感みたいなものは鋭いと思いますけどね……まぁ、でも……」 その時! 突然、浴室の方から聴こえたガラスの破裂音が真崎の言葉を遮った。 「何だ!? 一体、何の音だ!!」 香取は飛び起きるのと同時に駆け出していた。 「先輩! バスルームの奥の方からです!」 真崎も香取の後を追う。 バスルームの奥、ちょうどこの家の北北東に位置する角部屋の扉を、香取は躊躇する事なく押し開いた。 だが。 「なっ!? これは、一体……」 扉を開けた二人は、その異様な雰囲気に思わず息を飲む。 インテリアなどから察するに、恵の部屋であろうその壁の全面に、所狭しと貼られた幾枚もの写真。 同一人物らしきその写真は、全てがカッターナイフか何かでズタズタに切り刻まれていた。 「恵さん!」 その光景に、一瞬怯んだ二人だったが、タンスの脇にぐったりして座り込んでいる恵を見つけた真崎が、声を上げて駆け寄る。 風呂上がりで濡れた髪のままの恵は、パジャマ姿のまま意識を失っているようだった。 その周辺には割れた窓ガラスの破片が散乱している。 「先輩! 裏の納屋に人影がっ!」 割れた窓から外を覗いた真崎が叫ぶ。
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