鬼哭く夜に降り立ちぬ

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  「わかった! お前はそこにいろ! 俺が見てくる」 真崎の声に素早く反応した香取が、瞬間的に部屋を飛び出す。 一瞬、静寂が訪れる恵の部屋……そして。 香取が玄関を開けた音を確認した真崎は、恵に向かって口を開いた。 「さて……下手な芝居はいいわ。立ちなさい、恵さん。いえ……憑鬼」 「…………」 真崎の目つきは一変し、氷のように冷たい眼差しで、気絶したままの恵を見据える。 「…………ふふ……くっくく。わっはっは! 貴様、一体何者だ? 何故、儂が憑鬼であるとわかった」 すくっと立ち上がって、真崎を睨み付ける恵の瞳は朱色に染まり、その形相は正に鬼。 ショートカットの髪は伸び、その額には一本の角が生えている。 声も女子高生の物とは思えぬほどに低く、そして醜くしゃがれていた。 「とっくに気付いていたわ……最初に会った時からね。お前のように低級な鬼に邪気を抑えきれるはずがない。お前……この娘の嫉妬心から生まれて、何人か…………喰ったね」 真崎は憑鬼を睨み付けて言った。 「はんっ! 物知りだな、小娘。あぁ、そうさ。儂が最初に喰ったのはその写真の男。この恵という娘……よっぽどこの男が憎かったのであろう……まぁ、あまりにその憎悪が強過ぎて、結局、両親まで喰う羽目になるとは思わなかっただろうが」 真崎は軽い溜め息をつく。 「だろうと思った。お前の身体からは、人喰い特有の嫌な匂いがプンプンしてたわ。最初の男を喰った後、両親を喰らったお前は、この娘を餌により多くの血肉を求めた。自らの写真で興味を引いてね。 でも、運が悪かったわね、最初に現れたのが私だったとは…… さぁ! 大人しく闇に還れ! 憑鬼!」 真崎はそう叫ぶと胸の前で印を結ぶ。 「ほう。貴様は陰陽師の類いか? よかろう……どこからでもかかって来い! と……言いたいとこだがな。ふむ、なるほど……今まで大人しくしていたのは、おそらく……」 刹那! くるりと踵を返した憑鬼は、窓の外へと飛び上がった。 「しまっ……待て!」 咄嗟に飛び付いた真崎の腕をするりと抜けた憑鬼が、勝ち誇った笑い声を挙げる。 「わーっはっはぁ!! 図星のようだなぁ、小娘! 貴様が行動を起こさなかったのは、あの男がいたからだ。ただの人間のあの男がな! ならば、敢えて貴様とやり合う必要などない! 儂はあの男を喰らって、そのまま逃げ延びてやるわぁ!」
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