阿呆の降臨

2/14
前へ
/14ページ
次へ
*** 静寂を切るようにカツカツと靴音がした。 昼間はうるさくて耳を塞ぎたくなる位の中庭とは大違い… 今や、大学にいるは彼だけで、まるで彼の庭であるかのように悠々と歩く男がいた。 右を曲がれば、赤門がある。 ーそんなに通りたいなら、どこの大学でも作れば良いのにー そう思い、立ち止まって紅い門を見上げる… 「あ、終電。」 感情もなく放つ言葉にふと自ら気付き、足を急がせた 駅に行くには裏路地が手っ取り早い近道。 しかし彼は急がば回れだったのだ。 ーあぁー 絡まれた。ヤバイ…… 絡まれた。 髪色が何とも奇抜な方々に囲まれてしまった。 「おい、あんちゃんよぉー。話聞こえてんのかぁあぁ?」 と、脇腹を小突く金髪のデブ。 …デブのくせにカッコつけて見苦し… 彼はそう思ったが、すぐにその考えを掻き消した。 今はここから抜ける術を考えなければいけないのだ… 奴らは金目当てで狙っているのだから、さっさと降参し、走って帰るしかない。むやみやたらに突っ掛かれば、痛い目に合うのは容易に想像できた。 「いくら欲しいんですか?金ならありますから。」 彼は棒読みで発言した。 一瞬、男共はびっくりしたのか目を丸くしていたが、条件に満足したのか、解るやつじゃないか。と、両手を広げ、彼の財布を奪い取った。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加