君の、笑顔。

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 気を紛らわすために、ヴァイオリンの練習をしようと練習室のドアを開けた。セイは相変わらず部屋に引きこもって出てこない。いい薬だ、と呟きながらヴァイオリンを取り出し、用意していると、部屋の隅に見慣れないものが置いてあるのに気づいた。  「何だ?」  僕は手にヴァイオリンの弓を持ったままそれに近づいた。それはピアノの下に隠してあるようだった。片手で取り出すと、それは小さいけれど立派な花束だった。オフホワイトのメッセージカードには「ヨウへ」と赤い手書きの文字が書いてあった。僕は心がじわりと熱くなった。なんだ、セイもちゃんと用意していたのではないか。ただ、どうしたのかところどころ茎が折れていたり、花が取れていたり、しなびていた。  僕は弓を急いでケースにしまい、花束を持って階段を駆け上がった。さっきは酷いことを言ってごめん、と胸の内で反芻しながら。
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