話の続きじゃなかったっけ?

2/6
7205人が本棚に入れています
本棚に追加
/348ページ
部屋を出て廊下に一通り目をやる幹弥。 床や壁が部屋同様に木目調ではあるが、広さや造りは日本にあるような大きめの住宅を連想した。 幹弥がいた部屋は一番奥だったらしく、廊下の突き当たりの反対側に目を向けると、迷うことなく階段を見つけることができた。 お盆を落とさないよう慎重に階段を降りていく幹弥の耳には、相変わらず怒鳴り合いの声が響いてくる。 幹弥は取り敢えず声の他に暴力的な音が聞こえないことから、口ゲンカに留まっていると予想し、そんな中にこれから入ることに憂鬱と同時に少しだけ安堵の気持ちが芽生えていた。 一階部分は玄関まで伸びる一本の廊下の左右に各部屋に通じるドアがいくつも付いている造りである。 その中の玄関寄りのドアの一つから声がすると感じた幹弥は、恐る恐る中を覗くような形でそのドアを少しだけ開いてみた。 「稼ぎが少なくて図体だけ無駄にデカいだけの、顔、頭共にサルのお前が朝帰りとは、良いご身分になったモンじゃ!!」 「るせーっ!男なんだからたまにはこーゆー日もあって当然なんだ! 街へ繰り出した時くらいは多少大目に見ろってんだ!」 「何を男の矜持のようにほざいとるか! ただ酒場のネーチャンに言われるままに金を落としてきただけではないのか?!」 「あ、また俺の記憶を見やがったなぁー、この紫ババア!!」 「誰が紫ババアだとコラァー!」 息を潜めて覗いている幹弥の視界にはキッチンのテーブルを挟んで怒鳴り合う二人の人間の姿が映っている。 テーブルの向こう側にフィラが昨日と同じ出で立ちで、身を乗り出しそうな勢いで捲し立てている。 取り敢えずあの毒舌は自分に対してだけのものではないと分かった幹弥は、あれがフィラの地なのだと確信した。 そしてテーブルの手前で幹弥からは背を向ける形で椅子に座りこみ、岩のような大きな体を使って更に大きく身振りを交えながら怒鳴る男。 幹弥からはプロレスラーを連想しそうな大きな体と栗色の髪を角刈りにカットされた後頭部しか確認できないが、幹弥やフィラに密かに名付けた“紫ババア”を彼が使用したのを聞いて何だか親近感が沸き、微笑ましささえ覚えることに。 だがその直後、紫ババアと言われたフィラの腕から流れるような動作でステッキが振り上げられる。 昨日何度もその一撃を食らった幹弥は、反射的にその痛みが思い起こされ、つい声を出してしまった。
/348ページ

最初のコメントを投稿しよう!