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「危な……!」
フィラと対峙していた男は幹弥のその声に思わず振り返ってしまった。
そしてその直後、男の後頭部にフィラの一撃が振り抜かれることに。
バゴォォォォッ!!
「ん?グァハッ!」
「起きてきよったか。
それにしても脳ミソ弱いくせに見事なアシストじゃった!
誉めてやろう!」
「………………」
朝の挨拶を交わす前からこんな支離滅裂でバイオレンスな展開を見せられた幹弥は、自分に向かってサムズアップしているフィラと、床にディープキスする男を交互に見ながら困惑することしか出来なかった。
少々気まずい空気が台所を支配するものの、三人はそれぞれ適当に席に着き、朝食を採り始める。
何となく口を開くには雰囲気がギスギスしているので、分からないことだらけの幹弥は色々と聞いてみたい気持ちを堪え、フィラの顔色を窺うことで自分の行動を定め、朝食を口にしている現在であった。
そんな中、いち早く食事を終えてコーヒーカップを口に運んでいる大男が、不機嫌そうに呟いた。
「……ったく、いきなりテメエが声出したりしなかったら、ババァの一撃も回避できたってのによぉ~。」
幹弥としては完全な八つ当たりと思うのだが、初対面かつ自分が新参者という立場なので、どう反応すべきか分からずに小さくなって食事を続けるのみであった。
はっきり言って味云々など判別できる精神状態ではなかった。
しかし意外なことにフィラが助け船を出してくれた。
「どうせ食らってただろうから変な八つ当たりはよせ、みっともない。
それより初対面なんじゃから自己紹介くらいしっかりせい。
女のケツばっか追い回しとるから当たり前の礼儀すら忘れるんじゃ!」
「グッ……!」
フィラの言い分のどこかに核心部分があったのか、男は悔しそうに言葉を詰まらせてしまった。
しかしすぐに勢いよく愛嬌のある丸い瞳を幹弥に向け、朗らかに笑い出したではないか。
「わぁ~っははははっ!
そーいや自己紹介してなかったな!
俺ぁ既にアンタの顔見てたモンですっかり顔見知りの気分になってたわっ!
俺の名はワコルだ。
この婆さんに昔拾われて以来ここで暮らしてる。
一応木こりだが、そこいらのボンクラ兵士より遥かに強ぇぞ。」
このワコルという男はそのつぶらな目、そして鼻から口にかけて立体的に突き出た形を為す骨格から、確かにサル顔だと幹弥は密かに納得するのだった。
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