“兄さん”と“アニキ”

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こうしてこのユアランドで生きていく決意を固めた幹弥は、その後これからの自分の方針を話し合うフィラとワコルの言葉を黙って聞いていた。 幹弥も発言したかったが、フィラが「お前はすぐ話の腰を折るから黙っとれ!」と言われ、沈黙を強制されているのだ。 そして発言権が一切与えられぬまま結論に至ってしまった。 「まずはミキヤの性根を叩き直すためにガッツリ体を鍛える。 その辺は俺が徹底的に鍛えてやるから覚悟しとけよ?」 ワコルが幹弥を見下ろしながら、込み上げる笑いを堪えるように言ってきた。 取り敢えず幹弥には“アレックス”と呼ばれても本人という自覚がないので、呼称は“ミキヤ”になったらしい。 ワコルの発言に幹弥は薄ら寒いものを覚えたが、自分のために動いてくれるのだからと無理矢理納得して改めて頭を下げる。 そんな幹弥を見て、今度はフィラが口を開いた。 「お前が色々と疑問に思っとることに答えてやったとしてもすぐには理解できん頭じゃろうから、まずは生活しながら日常の常識を身につけろ。 それまであたしに質問することは一切許さん。鬱陶しいだけじゃからな。 知りたければまず自分で努力せい! 何でも労せず得られるなんて甘えた考えを正してやることから始めねばならん。 そういう意味でもまず体を鍛えるのは有益じゃわ。」 淡々としながらも所々に厳しさを突き付けてくるフィラの口調に、幹弥は身を引き締められる思いだった。 労せず知ろうとするなんて虫が良すぎる。 生まれ変わると決意したなら、まずはその結果を出した上でこそ知る権利が得られる。 幹弥はフィラの発言をそう解釈したのだった。 別にフィラが幹弥を一切拒絶する訳ではなく、世間話じみた会話はしてくれると言うので、そこから情報を拾いながらまずは自分で努力しよう。 そう幹弥は決意し、ひとまずは疑問を封印して二人の方針を了解したのだった。 「あたしゃこれから色々と調べ物をしていこうかの? コイツが現れたことで面白くなってきたわい。 フェッフェッフェッ。」 「婆さんが何を企んでんのか知らんけど、取り敢えずロクなモンじゃないのは分かる。 だからその気持ち悪い笑い声を止めやがれ。」 「やかましいわ! あ、そうそう。コイツを鍛えるのが一段落したら二人まとめてあたし直々に講義をしてやるからな。 お前の頭の悪さも筋金入りじゃから覚悟しとくんじゃな。」 これにはワコルも顔を青くした。
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