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恐る恐る視線を落とすと、村長の手に握られた一本の真剣が、俺を貫いていた。
それを認識したのと同時に、刀が勢い良く引き抜かれる。
痛みと共に広がり、着物を赤に染め上げる血。
「方法は至って簡単じゃ。゙死を克服した者゙を゙死に追いやっだ刀で、誰かを殺すこと――」
なんだよ、それ。
満足げな彼の表情がぼやけて、俺は力無く地面へと崩れ落ちた。
「村長何てこ…を……太郎さ…殺す…必要は……」
「喧し…儂が…」
村長と誰かが言い争っているのが聞こえる。まるで水の中に居るようにほとんど聞き取れない。
ああ……俺は……こいつの糧になるのか……
そう思った時、ふと自分の右手にはまだ木刀が握られていることに気付いた。
『太郎……どうかこの子を』
呪いにも似た、母の声が――
村長の刀が宙を舞う。
最後の力を振り絞って彼の手から弾いたそれを掴み取り、思い切り振り上げた。
「死を克服する方法? 今から試してやるよ!!」
そう叫んで、驚く村長の喉元に刀を突き立てる。俺の顔を襲う血飛沫。
彼は目を見開き恐怖が顔に張りついたまま、真後ろに倒れた。そして俺自身も地面に伏す。
村長から溢れる血の海。恐らく先に死ぬのはあいつの方だろう。もっとも、不死だのそんな不確かなもの信じる気は無い。
ああ。暗くなっていく。もう、ここまでみたいだな……
その瞬間、頭を襲った、他の全ての痛みを掻き消す程の激痛。
その痛みはすぐさま俺を支配した。
「あ゙あ゙あ゙ああぁぁっ! 頭が割れっ……!!」
そう叫んだ時、突然痛みが嘘のように消えた。頭だけではなく、刺された痛みまでも、だ。
荒々しく息をし、よろめきながら立ち上がる。
腹の傷が、消えていた。着物に大量の血の染みを残して。
「嘘……だろ……」
本当に、死を克服してしまったのだ。
俺が呆然としていると、今まで怯えていた村人の一人が狂ったように大声を張り上げた。
「は……ははは! 本物、本物だ! なら俺だって……!」
そして村長の首に刺さったままの刀を引き抜き、近くに居た人間を切りつける。
だががむしゃらに振り回した為、浅い傷を付けただけだった。
「な、何をする……!」
「うるさい! 俺も不死になるんだ!
誰かに殺されてしまう前に!」
その一言で、その場にいる全員の目の色が、変わった。
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