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「その刀を寄越せ!」
誰かの叫びと共に、暴れていた奴の頭部に巨大な石が投げつけられる。血を流して倒れた彼から刀を奪う為、皆我先にと駆け寄った。
そして始まった醜い争い。
殴る、切る、罵倒する。死人はまだ出ていないようだが誰もが血だらけで、他人を犠牲にしてでも自分さえ良ければ構わないと思っている。
罵声が、悲鳴が、狂ったような笑い声が、木霊する。
何だよこれ、何だよこれ、何だよこれ。
――花を殺そうとしてまで手に入れようとしたものの結果が、これか?
ふつり。と、何かが切れる音がした、気がした。
ゆっくりと騒ぎの中心へと歩み寄る。すると偶然誰かが振り回した刀が俺に突き刺さった。痛みを感じたが、そんなものどうでも良い。
俺から発せられる異様な気配を察して、皆一斉に静まり返る。
「あ……ああ……」
そんな中、一人が俺の顔を指差して震え出した。
「化け物だ……!」
化け物? 俺が?
自分に突き刺さった刀を引き抜くと、怯える奴等に標準を合わせる。
どうやら俺は笑っているらしい。
そして彼等に、最期となる言葉を掛けた。
「その言葉、そのまま返す」
しばらくの後、俺は多数の屍転がる赤い大地で立ち尽くしていた。
断末魔や助けを乞う声を上げる者はもう居ない。
これで静かになると思ったのに、今ここで繰り広げられていたことなどお構い無しの蝉の声が相変わらず喧しい。
まるで非難されているようで……うるさい。
家の前が汚れてしまったのをどうしようかと悩んでみたが、もうここには居られないということを思い出し、苦笑する。
ああ、そうだ。花を。
悲鳴を聞いて村から他の人間がやって来るのも時間の問題だろう。ならばこっちから出迎えてやれば良い。
そのように決め、村の中心に向かって歩き出す。
ふと、足元に我が家の水桶が落ちているのが目に入った。おそらく花が村長達に気付いて家に逃げ帰る時に置いていったのだろう。
「……家から出るなと言ってたんだがな」
何とはなしに、出来ていた小さな水溜まりを覗き込んでみる。
そこには、黄色の瞳、頭に小さな角を生やし、薄ら笑いを浮かべる俺の顔が映っていた。
だが俺は驚きはしなかった。何故だろう。異端であることに慣れてしまったからか。
ただ、笑えた。
「ああ、本当だ。これは、化け物だな」
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