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スーパーで買ってきた普通のカボチャが、先生の手でジャックオランタンに変わっていく。いつもは真っ先に教室を飛び出て遊びに行く皆も、今日ばかりはワクワクした目で奮闘する先生を見守っている。僕はその輪に加わる事は出来ない。だって知っているんだもの、僕が関わったジャックオランタンは絶対に潰されてしまうんだって。
アメリカにいた頃にお父さんとお母さんが言っていたんだ、毎年ジャックオランタンが潰れているのは妖怪のせいなんだって。日本から僕達にくっついてきて悪さをしているんだって。僕は妖怪達を懲らしめてやろうと思って、水木しげるの妖怪事典を穴が開くほど読み返した。忘れなんかしないぞ、見逃しはしないぞ、お前達の事は僕が絶対に見張ってやるからな。そう意気込んでも僕が寝ている間に妖怪達はアメリカにいた四年間欠かさず、僕とお母さんが一生懸命に作ったランタンを叩き潰していった。
僕はもう我慢の限界だ。日本は妖怪達の住処だからきっと凄い攻撃を仕掛けて来るだろう。でもここで引き下がったら「おとこがすたる」。僕は台所から塩の袋を持ち出してこっそりと真夜中の教室に忍び込んだ。しばらくすると誰かが廊下を歩く音がしてきた。きっと妖怪だ、先制攻撃を仕掛けてやる。
「悪霊退散!」そいつがドアを開けた瞬間に塩をばら撒いて体当たりする。「ちょっと、おいカズキ君!何をしてるんだ!」驚いた、妖怪は先生に化けていたのだ。…実はそれは妖怪でも何でもなくて、先生は本当に先生だった。僕はお父さんお母さんに思いっきり叱られて、しばらく遊びに行くことが出来なくなった。ジャックオランタンは結局最後まで無事だった。次の年も、また次の年も。
なんで日本では妖怪達は悪さをしないんだろう?なんで妖怪達はあの時、隣のボビーや向いのデイビッドが作ったランタンを壊さなかったのだろう、近所なのに。なんで僕の家だけが悪戯をされなきゃならなかったんだろう、お菓子だってたくさん配ったっていうのにさ。
Trick and Trick , Trick and Trick。
「犯人は本当に妖怪だったのだろうか?」
僕はハロウィンが嫌いになってしまいそうだった。
~終わり~
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