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少女は化け物に視線を向けたまま、耳に手を当てて、誰かと話している素振りを見せている。
距離を詰めながら耳を澄ませば、かすかに彼女の声が聞こえてきた。
「はい、空間の歪みが観測された地点で一般人を発見しました! はい……救出、開始します!」
通信が終わったのか手を下ろし、こちらを見ると彼女は大きく手招きをして叫んだ。
「キミー!! 早くこっちに来て! “シャドー”が起き上がるわ!」
同時に地面が揺れ始め、大きな影が俺の真上に落ちてきた。
あの化け物が起き上がったのだ。
俺は先程の恐怖を思い出して、振り返らずに真っ直ぐ少女の元へ走った。
彼女が何者かなんて考える余裕はない。
バクバクと早鐘を打つ胸を押さえて、無我夢中で走っていた。
死にたくない、その一心で。
「急いで!」
背後で化け物の咆哮が大気を震わせ、俺の恐怖を煽っていく。
足がもつれ何度も転びそうになったが、何とか彼女の元へ駆け寄ることができた。
「なんだよ、あの化け物は!」
「説明は後でするからそこに居て!」
そう言って彼女は化け物に向けて銃器を構えた。
化け物も少女を警戒しているのだろうか。
すぐに襲ってくる様子はない。
化け物と少女が対峙し、沈黙と睨み合いが続く。
『……ナ……ィ』
先にその沈黙を破ったのは化け物の声だった。
まるで言葉を話しているようにも聞こえる音に思わず耳を傾けて―――
その後に続いた声に驚きのあまり息を詰まらせた。
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