赤と黒の世界

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「どうして!? ダメ!! 琉斗くん!!」 背中から俺を心配する詩音の声がする。 先程までは、死にたくないとあんなに叫んでいたのに。 どうして俺は死に急ぐようなことをしてしまったのだろう。 まぁ、いいか。 飛び降り自殺より女の子を守って死ぬほうが何倍もマシな気がする。 折角こんな俺なんかのためにいい言葉を掛けてもらったのに……。 「ごめん……詩音」 牙をむき出しにして襲い掛かるシャドーが怖くなり、固く目を閉じた。 これから来る痛みと恐怖に耐えられるように――― 「……ん?」 一向にシャドーの攻撃が来ない。 あのスピードなら吹っ飛ばれても、身体を食い千切られても、おかしくないはずだ。 恐る恐るゆっくり目を開いた。 しかし、眼前にいたはずのシャドーの姿がない。 「……は、え?」 気が抜けて間抜けな声が出た。 確かに巨大なシャドーが詩音に襲いかかろうとしていたはずなのに……。 もしかしたら詩音が何かしたのかもしれないと振り向いたが、詩音は座り込んだまま呆然と俺を見ている。 いや、呆然と言うのは少し語弊があるかもしれない。 少し怯えているように見えるのだ。 まるで信じられないものを見たと言いたげに……。 「琉斗くん?……今、何をしたの?」 「……え?」 思い掛けない言葉に思わずキョトンとしてしまった。 俺が何かしたのか? いや思い当たるようなことは何もしていない。 「今シャドーが……」 詩音が何かを言いかけたが、突如バイクのエンジン音が割り込み話が途切れてしまった。 先ほど詩音と連絡をとっていた仲間だろうか? バイクは俺たちの前に止まり、一人の男がバイクから降りてくる。
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