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決意した俺を誘うように冷たい風が頬を優しく撫でていく。
さすがにビルの屋上は風が冷たい。
この場所は三ヶ月前に廃墟化したビルの屋上。
整備も何もされていないただ古びていくだけのビルだ。
屋上の端に立ち、今から自分が落ちるであろう場所を眺めていた。
今の時間は夜。
周りのビルや店には明かりが灯され、星空のように光り輝く綺麗な夜景が広がっている。
今の自分にはこの夜景を優雅に堪能する余裕もないし、もちろん一緒に楽しむ友人も、彼女もいない。
そしてこれから先も……。
いや、そもそも“先”すら無くなるのだから、気にするだけ無駄なことだ。
祖父母には心配を掛けないように今夜は友達の家に泊まると伝えてある。
信頼できる友達なんて六年前に引っ越したあいつぐらいしかいないっていうのに……。
ごまかし方がなっていない。
緩すぎて自分でも笑えてくる。
でも、これで二人を苦しめることはない。
お荷物の俺が消えるからだ。
さて、そろそろ準備をしなければ、と下を覗き込んだ。
―――高い。
覚悟してきたとはいえ、恐怖で足がすくんでしまう。
でもここを乗り越えれば後は一瞬だ。
―――そう一瞬。
それが分かっていても、その一歩を踏み出すことができない。
ここに来てからすでに二時間が経過しようとしていた。
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