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悪夢のような地獄絵図の日は過ぎ去った。
この山のツキノワグマはムーニだけ残して全滅した。
数年前も食害か何かでこの山の鹿やニホンザルを猟友会が根こそぎ撃滅させてしまったので、程どものけのからと化した。キツネもタヌキもイタチもリスもこの山を離れていった。
「人間のせいだ!悔しい・・・僕達はいったい何をしたんだ!僕達は人間の都合で生きている訳じゃない!僕達は僕達の“生活”があるのだ!それなのに・・・それなのに・・・!!」
草藪でのハンターの鉈で攻撃され命を絶った悪友のブーウのまだ生々しい血痕をムーニは前脚でさすりながら、止めどない涙を流していてうなだれていた。
地元の猟友会はまだ一頭ツキノワグマ・・・ムーニが残っているとは知らなかった。
泣き疲れたムーニはこの茂みにうとうとしていつの間にか眠りこんでしまった。
・・・夢の中・・・
そこにはブーウやフワがいた。そしてあのプックがムーニを見つめていた。
「バイバーイ!俺はお先に行くぜ!ヤマブドウのこと?きにするな!」
「ムーニさん、あなたに会えて良かったわ。お腹の子供はあなたの子供なら良かったけど、天国で育てるわ。」
「ムーニ!遠く離れても君の友達だよ!」
・・・えっ?みんなどこに行くんだよ!僕をひとりぼっちにしないでよ!僕を置いていかないで!寂しいよ!行かないで!みんな行かないで!!・・・
・・・ムーニは目が覚めた。夢か・・・僕はひとりぼっち・・・僕は孤独だ・・・寂しい・・・腹が減った・・・何か食べよう・・・そうだ・・・もっと奥・・・もっと奥だ!そこに行けば・・・そして、いい巣穴見つけて冬眠の続きを・・・みんなの分まで生きてなきゃ!!・・・でも僕独りで・・・
ムーニは身の回りのまだハンターがいるのではないか?と確かめて、この“修羅場”から抜け出した。
ムーニは歩いた。歩き続けた。夜のとばりもふけ、とても寒い。凍える。フクロウさえ逃げ出す奥地まで人間の手が入ったブナの木さえもない針葉樹だらけの木々を歩く。
食べ物と食べ物もない。腹が鳴る。ひもじい・・・
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