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「ナサリーさん。いい名前だなあ。」
「それほどでも~!でもこの名前はおいらの御主人様につけてもらった名前なんだ。」
「えっ?!御主人様?!」ツキノワグマのムーニはアライグマのナサリーの発言に目を丸くした。
「御主人様って・・・」
「おいらは人間に飼われていたんだ。遠くアメリカという所から母ちゃんは連れて来られたって。おいらは日本生まれだけどな。で、おいらは“ぺっとしょっぷ”という場所で人間に買われた。」
「買われたって!?」ムーニは驚きの余り鼻の穴をナサリーの目の前でパンパンにして飛び出た鼻息がナサリーの顔にぶわっと吹いた。
「まあ落ち着いて。うん。おいらは“ぺっと”だよ。いや、“元ぺっと”かなあ。おいらは買われた後ずっと狭い檻の中だった。食べ物は出るが、身動きがとれなくて、ずっと檻の外を羨ましく思う毎日だった。」
ナサリーは溜め息をついた。
「ある日、おいらは檻ごと御主人様の車でここに連れられたんだ。おいらはめっきり遊びに連れて貰ったと思ってワクワクしたんだけどね・・・」
突然ナサリーの顔色が曇った。
「おいらの御主人様はいつ檻を開けてくれるか待っていたんだけど、一向に開けてくれない。しかも御主人様が見当たらないんだ。」
「ええっ?!」
「御主人様を来るのを待って待って待ちわびてしびれをきたしたおいらは檻をドンドンと叩いたんだ。そしたら檻の扉がすぐ開いたんだ。さすが御主人様だと思ったんだ。
檻から出たおいらは御主人様をさがしたんだけど、どこを探してもおいらの御主人様は見当たらないんだ。ひょっとして・・・と思ったんだ。」
「まさか・・・」
「そのまさかだよ。おいらは御主人様に捨てられたんだと・・・」
アライグマのナサリーの目から悔し涙が滲み出た。
「僕は御主人様に裏切られたんだと思った。何の為に御主人様に今まで檻の中で愛想を振りまいてたかと思ってたら人間への怒りが込み上げ来たんだ。
その時おいらは母ちゃんのいる“アメリカ”に行きたくなってずっと歩き続けていたけど、歩いても歩いてもどうしても“アメリカ”に着かなくて、仕方なくこの山にひっそりと住んでいる訳さ。」
アライグマのナサリーは今さっきのツキノワグマのムーニの鼻息のお返しだと、ムーニの鼻の穴に吐息をふーっ!とお見舞いした。
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