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ムーニはいつまでも友達のアライグマのナサリーの死を嘆いている暇は無かった。
人間がどやどやとやって来たからだ。
ムーニは人間に見つからないように茂みに隠れて、人間がやって来た巣穴の前を見張っていた。
やっぱりだ!人間があの毒餌をばら撒いたのだ!生態系を崩し、農作物を食い荒らすアライグマを駆除するためにやったのだ!
人間・・・もとい役所が雇った駆除業者がアライグマのナサリーの亡骸を手袋をした手でつまみ上げ、汚そうにゴミ袋に詰め込んでいる様をツキノワグマのムーニが目撃した瞬間、
「やめてくれ!」
と飛び出したかったが、今度は自分の方が危険に晒されるので寸前で我慢した。
と同時にムーニは人間に対し激しい怒りがこみ上がった。
・・・僕らは何をしたんだ!ただ“生きている”だけで“悪い”のか?人間どもは人間の都合だけで僕らを“不必要な存在”だと決めつける。正しく“人間本位”の世界なのだ!僕らだって・・・!僕らだって・・・!・・・
ムーニは悔し涙を浮かべながら、ナサリーの亡骸の入った袋を持った駆除業者を追いかけた。
駆除業者はSUV車に袋を載せて行ってしまった。
ムーニはそのSUV車を追いかけた。人間から隠れてることを忘れ、夢中で追いかけた。
追いかけども追いかけども、ムーニからナサリーの亡骸を載せたSUV車は離れてゆく。
「待ってくれ!待ってくれ!」
ムーニは脚をつまづいて転倒した。それでも追いかけた。
「待ってくれ!待ってくれ!」
ムーニの涙声も虚しく、SUV車は点粒程になり、視界から消えてしまった。
ムーニはそのままうつ伏せで「畜生!畜生!」とわあわあ泣きわめいた。
その鳴き声は山林に轟いた。
そこに一羽の小鳥がやって来た。その小鳥はムーニが仲間のクマが人里で射殺された時に、「自己責任だ」とつれない発言をしてムーニの気を悪くしたモズのヨンだった。
「そう気を落とすなよ、ムーニとやら。死んだ者は生き返らないけど心の中で生きてるんだ。自分の思い出の中で・・・」
涙の枯れた目でモズに振り向いたムーニは、モズのヨンの励ましの言葉に「ありがとう」とうなづいた。
「あれ?ところで・・・」「なあに?」
「キビタキさんは?」
突然モズのヨンは顔を曇らせた。
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