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濁流となった川に押し流され、滝壺に墜落していった一頭のツキノワグマを見た少年がいた。
この少年の名は正男という名前だ。もう夏休みもとっくに終わったが、訳あって山奥にいる。
正男はとうとうと流れ落ちる滝壺の下に急いだ。
岸辺に一頭のツキノワグマがぐったりと打ちあがっているのを正男は発見した。
「死んでいるのかな・・・。」
まだ生きていてそのクマに襲われたらどうしようと正男は考えた。
が、何のために山奥まで行ったのか?どうせならこのクマに・・・と正男は恐る恐るその岸辺のクマに近づいた。
まだ生きていた。お腹が息をしている。溺れて大量に水を飲んだのだろうか?
「このままにしたら本当にこのクマが死んじゃう!」
そう思った正男はクマを仰向けにして、お腹を押して水を吐き出させようとした。
今度はクマの鼻をつまんでクマの口に正男の口を付けて息を吹き、人口呼吸をした。まさかこんな時に体育の授業で習った水泳での授業が役に立つとは正男は思わなかった。
すると、クマの頬が膨らみ、口から大量の水が吹き出し、荒かったクマの呼吸が正常になった。
「良かった・・・生き返った・・・!」
クマがむくっと起き出した瞬間、正男はギョッとした。本当に襲われたら・・・
そのクマは別に攻撃する訳は無かった。ただきょとんと座って、正男をつぶらな瞳で見つめていた。
正男はそのクマがたまらなく可愛く見えた。大人達はみんなクマを“この世には居てはならない害獣”と言い放つが、この時正男はこんなことは“嘘”だと思った。こんなに可愛い奴が“この世にいてはならない”なんて“嘘”だ!と・・・
正男はクマに「来いよ!」と手のひらを出してけしかけた。
クマは警戒して後ずさりした。
更に正男は「さあ来いよ!」と近寄った時クマは身構えたが、この少年は自分に危害を加えないと判ると、身構えるのを止めて正男に近寄ってみた。
クマは正男の手のひらを鼻でクンクンと嗅ぐと、舌でペロッと舐めてみた。
正男は嬉しくなった。一頭のツキノワグマが僕を“友達”と認めてくれた・・・!
そこで半分に分けた菓子パンをクマに与えてみた。
クマは菓子パンの匂いを嗅いで安全だと判ると、腹がだいぶすいたのが菓子パンをむしゃむしゃとかぶりついた。
クマは「もっと欲しい!」と言ってるように正男に抱きついてすがった。
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