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秋が瞬く間に過ぎ、冬籠もりの厳冬がやって来た。
ツキノワグマのムーニもまた、木のうろの巣穴の中で寒さを凌いで眠りこけた。
元々、このうろの巣穴は他のツキノワグマが持ち主だったが、ムーニがこの地へ着いた数日前に持ち主のクマが人間の手によって死んだので、自然にムーニのものになった。
当時『新入り』のムーニが他のクマと軋轢が起こらなかったのが皮肉だ。ちなみに前のクマは道路に飛び出して車にはねられ、重症だった所を出動した猟友会が人間に危害を加える恐れがあると、鉈を投げつけて殺されるという悲劇的な死を遂げたクマだった。
ムーニはうろの巣の中で夢を見た。
夢の中ではムーニが小熊のころに死んだ母グマが出てきて、ムーニは母グマを追いかけていた。
「待って~!お母さ~ん!」
いくらお母さんをを追いかけても追いつかない。
どんなに走ってもどんなに走ってもムーニは母グマには追いつかなかった。
夢中で走っているうち、辺りが暗くなった。母グマの姿は見えなくなった。全てが真っ暗でただムーニが一頭ポツンといるだけになっていた。
「寂しいよ~!お母さ~ん!どこに居るの~!僕を置いて行かないでよ~!」
ムーニは呼べど叫べども誰も返事は無い。
「どこだよお母さ~ん!」ムーニは夢中でこの暗闇を母グマを探して走り回った。
その時、暗闇の中が狭まった。暗闇がムーニを押しつぶさんと迫ってきた。
「お母さん!助けて!お母さん!」
その暗闇は沢山の人間の姿に変わり、今度はムーニを追いかけて出した。
「助けて!助けて!お母さん!!」
追いかけてくる、おびただしい人間の影からムーニは夢中で逃げた。
逃げて逃げて逃げてまくった。
逃げても逃げても追いかけて来る無数の人間の影。ムーニは恐怖の余り金縛りに遭い、硬直して動かなくなった。
そして、人間の影の一部がムーニに襲いかかっかかった。
「やだああああ!助けてお母さあ~~~ん!!!」
人間の影がムーニに殴りかかった瞬間、ムーニは木のうろの巣穴の壁に嫌と言うほど勢いよい頭をぶつけて目が覚めた。
「・・・何だ・・・夢か・・・」
ムーニはぶつけた頭を痛そうに前脚でかきながら、今見た悪夢を思い出した。
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