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「はぁ…。」
三時間も門限を過ぎたのだ。
僕はこっぴどく叱られるだろうと予想してため息をつき、父の書斎へと向かった。
長い廊下を歩く一歩一歩が重くなる。
僕だって人の子だ。身内でも怖いものは怖い。
ましてや、一緒に食卓についたことも、数えるほどしかない父親だ。
和樹や晃のほうが僕に近いだろう。
厳格で、妥協しない性格。
僕にだってそれくらいしかわからないのだから。
ドアの前で立ち止まり、深呼吸を、1…2…3…。
カチャ…キィー…。
「ただいま帰りました、お父様。」
冷静な声で挨拶をする。
声だけ。
「周。」
低い声で名前を呼ばれ、少しどもる。
「は、はい。」
「えらく遅かったな。どこへ行っていたんだ。」
「はい、図書館に寄ったあと、友達の家で勉強していました。集中しすぎて、暗くなっているのに気がつきませんでした。すいません。」
僕はあらかじめ用意していた言い訳を伝えた。
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