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長い終礼が終わり、担任に挨拶をして、僕はさっさと校舎をでる。
と、
急ぎ足の僕に、和樹がついてくる。
「また行くのかぁ?周。よく飽きないなぁ。」
そう、僕は今、ある場所に行くために、急いでいる。一年前から通い続けている所へ。
だが、天は僕を行かせたくないようだ。
また、声が掛かる。
「よう。ずいぶん急いでるんやな。どこ行くん?」
流暢な大阪弁と共に、僕の視界には、金髪にピアス、だらっ、と着崩した制服の男がいた。
「別に。ちょっと用事があるだけだ。」
また、愛想悪く答える周を、慣れたように和樹がフォローする。
「ははっ。終礼が長かったもんでな、例の場所に行くのが遅れたらしい。」
説明するように答えた和樹に、あぁ。と、納得した男は、
「あきらぁーっ!」
はい、そうです。
「カラオケ行くんだぁっ。一緒に行かない?」
「ごめんなぁ、楓ーっ。俺用事あんねん。またな!」
頼むから、僕の話を遮るのはやめてくれ。早乙女 晃(さおとめ あきら)。
「かんちゃん、俺も行ったらあかん?」
「かんちゃんはやめろ。駄目だ。」
僕は、神崎 周(かんざき しゅう)。だから、かんちゃん。…らしい。
「けちぃー。」
子供みたいな晃と、それをなだめている和樹を置いて、僕は目的地へ向かう。
引きとめても無駄だとわかったのか、二人とも追ってこない。
このとき、行かなければ良かったのかもしれない。
これから起こる全てのことを、このときの僕は、知るよしもなかった。
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