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もう、その場所までの道は、考えなくても、勝手に体が行ってくれる。
それほど、毎日訪れていた。
「あいつらのせいで、一時間も遅れたじゃないか。次会ったら、覚えてろよ。」
その場にいない二人に、悪態をつきながら歩く。
こんな暗い路地が、まだ今の時代に在ったのか、と思う。
目立たないからこそ、とてつもなく惹かれ、入った先。
入りくんだそこを抜けると――――。
温室。
だがもう、温室の役目は果たしていない。
色とりどりの花が、咲き乱れているその建物の真ん中には、目を奪われてしまうほどの、
桜。
ビニールを突き破り、堂々とその姿を魅せている。
下に咲く、たくさんの花が、霞んでしまうほどの、姿。
一年前と同じ。
「はぁ…、はぁ…。」
昨日と同じ。
と思った。
すっかり息を切らしてしまった僕は、深呼吸を繰り返していた。と、何故かわからないがこのとき、違和感を感じた。
何かが呼吸する音が、聞こえるのだ。
「…ぇ…。」
音の方向を見たが、あるのは桜と色とりどりの花だけ。確かに今も聞こえる、「スー…、スー…。」という音。
僕は気づいた。
桜の裏だ。
そこには、安らかな寝息をたて、幹に寄りかかって眠る、少女。
「……だれ……だ……?」
一年中通っていて、初めての出来事だった。
この温室に、人。ましてや、少女が訪れた事などなかったのに。
艶やかな黒髪が少し、桜の幹に絡んでいる、整った顔立ちの少女。
僕は、この桜を見つけたときのように、惹き付けられた。
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