始まり

4/6
前へ
/30ページ
次へ
もう、その場所までの道は、考えなくても、勝手に体が行ってくれる。 それほど、毎日訪れていた。 「あいつらのせいで、一時間も遅れたじゃないか。次会ったら、覚えてろよ。」 その場にいない二人に、悪態をつきながら歩く。 こんな暗い路地が、まだ今の時代に在ったのか、と思う。 目立たないからこそ、とてつもなく惹かれ、入った先。 入りくんだそこを抜けると――――。 温室。 だがもう、温室の役目は果たしていない。 色とりどりの花が、咲き乱れているその建物の真ん中には、目を奪われてしまうほどの、 桜。 ビニールを突き破り、堂々とその姿を魅せている。 下に咲く、たくさんの花が、霞んでしまうほどの、姿。 一年前と同じ。 「はぁ…、はぁ…。」 昨日と同じ。 と思った。 すっかり息を切らしてしまった僕は、深呼吸を繰り返していた。と、何故かわからないがこのとき、違和感を感じた。 何かが呼吸する音が、聞こえるのだ。 「…ぇ…。」 音の方向を見たが、あるのは桜と色とりどりの花だけ。確かに今も聞こえる、「スー…、スー…。」という音。 僕は気づいた。 桜の裏だ。 そこには、安らかな寝息をたて、幹に寄りかかって眠る、少女。 「……だれ……だ……?」 一年中通っていて、初めての出来事だった。 この温室に、人。ましてや、少女が訪れた事などなかったのに。 艶やかな黒髪が少し、桜の幹に絡んでいる、整った顔立ちの少女。 僕は、この桜を見つけたときのように、惹き付けられた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加