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目を覚ますと、目の前の女性が呆れた顔で見ている。
「んあ~?…あれ、ここ…、俺、一体何して…。おお、寺本…、って片桐は?」
「もう、帰ってもらったわよ。分かってる?結婚式、明日よ?」
「…分かってるよ」
…痛いくらい。
「情けないわねー…」
「うっせぇ…」
ムッとした表情を見られなくて寺本から背を向ける。
「…ほんとアンタ、ミホばっか。…どーせ、『あの時、俺が~』とか思ってるんでしょ」
「ぐ…、うっせーな」
「ハハハ、…図星だ!後悔するなら言ってみれば?」
「何言って…」
「終わりがあるから始まりがあるのよ。…いつまでそこにいる気?」
寺本は立ち上がると、スウッと息を吸い込んだ。
「……須本咲良ぁっ!!」
シーンとした店内に響く凛とした声。
「お、…おい?」
「男なら当たって砕けなっ!!」
そういい残すと寺本はニヤリと微笑んで颯爽と店を出て行った。
「ハ、ハハ…、どんだけ男前なんだよ。
…終わりがあるから始まりがある…か」
結婚式当日―――。
「よっ!おめでとさん」
「あ!カス本!!」
目の前には、俺の初恋の人。
「お前ねぇ~、今日くらいそれやめれ」
「なんで?カス本は、カス本!」
彼女の表情に笑みが漏れる。
「…どうしたの?」
不思議そうな片桐の顔。
「……俺さ、…お前のことがずっと好きだった。…多分、今も」
「…須本、…私」
「…あ、えと、別に何かしよーとか、ないから!俺、この結婚ほんと嬉しいし!…ただ、伝えたかっただけなんだ」
お前がまだ片桐美穂の時に。
「…須本、…うん、あり、がと」
少し涙を浮かべて笑う彼女は最高に綺麗だった。
「…あの、さ。最後にお願いがあるんだけど」
「えっと、なに?」
「名前…呼んでくんね?」
「……………咲、良?」
「フ…、やっぱ気持ち悪ぃ」
「なっ!!カス本!?」
「そうそう!やっぱソレのがいいや!」
「もうっ!」
「…幸せになれよ」
「…………うん」
…――――。
結婚式の参列の中、寺本が俺の隣にきてボソッと呟く。
「…なかなか、やるじゃん」
「…っ!!見てたのか!?」
ニヤリと笑う寺本。
「…あたしも、頑張るかな」
「…ん?何か言った?」
「いえー、何にも言ってないけど?」
「なんだそれ?」
俺の初恋――。
初めて人を好きになった。
初めて人の幸せを願った。
全てが初めてだった、俺の初恋――。
―fin―
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