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実はここまで考えさせられるのにはもう一つ、重要な思い出があったりすることも関係しています。
私が生まれて初めてこの平和記念公園に来た時――その時も広島に遊びに来ていた例の高校の友人とだったのですが――ものすごい雨が降って寒い日だったんです。
その雨の中平和記念公園を歩いて、この動員学徒慰霊塔のところまで来た時、一人の女性の姿を見たんです。
――外国の方でした。
朱い髪で、どこかラテン系な感じのする風貌の。
その方はレインコート一枚で長いまつげに雨露をしたたらせながら、例の灯籠の彫刻と一緒に彫られた説明文をじっと見つめていました。
それが、その日の私には他の何より印象的な姿でした。
広島に引っ越して一ヶ月経ったくらいのことだったので比較的早い時期だったとは言え、一度もこの公園に来たことがなかった自分と、遠く異国から知らない言語の国に来て、碑文を真剣に読む女性。
あまりに真剣度が違いすぎるなあ、と思ってしまいました。
さらに恥をさらすなら、です。
その日全部見終わって最後に原爆資料館にしようと言う話をしていたら、ご飯前の時間になってしまってご飯の前と後どちらで入るか、と言う議論になったんですね。
(食べてから吐きたくなるか、見てから食欲なくすか、という二択)
んで、結果
『うん。食べてから入ろう(吐くまでいかないかもしれないし)』
ということになったのですがこれが大間違いだった。
平和祈念資料館から食べ物屋さんのあるところまでっておっっっっそろしいくらいに距離があるんですよ。
しかも五月の冷たい雨に打たれながら二人無言で歩く。
せっかく原爆ドームまで来ていたんだからそのまま町に戻れば良かったのに公園内を回ってさらに遠回りして濡れて冷たくなって――その後にたどり着いたマックに入った途端、もう動きたくない、と言う風になってしまったんですね。
私もそう言う友人を責めることもできず。
しかも友人は『長崎(彼女の修学旅行先)で見たから』と言うので、自分は当面は地元だし、とその時は見るのを諦めたんです。
まあ、事情は事情とは言え、ちょっと真剣みには欠けますよね。
……いえ、私がもっと広島の市内の地理に精通してれば良かった、という話もありますが。
とにかくそんな思い出があったので、この場所は何度来ても身につまされる気分になるのです。
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