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「ぼくね、……ちゃんとけっこんするー」
「ほんとに?じゃあ、約束…」
…――――。
「…ろせ、…広瀬理人(ヒロセリヒト)っ!」
数学教師・早乙女の声にハッとなり、今が授業中だったことに気付く。
「…はい」
あくまで平然と返事をした僕はゆっくりと立ち上がった。
「生徒会長には、俺の授業は退屈みたいだな?…この設問、やってみろ」
嫌味そうな顔でニヤリと笑う早乙女。
(ハァ…、またか)
この早乙女という教師は、何かと僕を目の敵にしてくる。
やはり、文化祭のことで揉めた事が原因だろうか…。
フウッとため息を一つ吐くと、ニコリと笑って黒板の前に立つ。
早乙女が薄笑いを浮かべながら僕を見ているが、澱みなくチョークを運ぶ僕の手に徐々に戸惑いの表情が伺えた。
―カツッ
書き終えたチョークを置き、ニコリと微笑んで早乙女を見る。
「出来ました」
早乙女は先ほどとは打って変わって唇を固く噛み、顔を真っ赤にして震えている。
「…も、戻って、よしっ!!」
「おおーっ!!」という教室の感嘆の声を無視して、席に戻った。
(また、あの夢…、あの日からずっとだ…)
丁度後ろの席の崎田が身を乗り出して声をかけてきた。
「おい…広瀬、何考えてたんだよ?」
さすが、親友。
僕が話を聞いてなかったことを見抜いていた。
「…別に」
そっと手のひらを見つめる。
――あの夏祭りの日。
繋いだ彼女の手のぬくもりが忘れていた幼い記憶を呼び起こした。
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