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「珈琲でも入れるから、座ってて~!」
そう声をかけ、私はキッチンに立つ。
「さすが、綺麗にしてるね~!
俺んちなんか散らかり放題だよ」
「そんな事ないよ!
今はほら、私1人だから…
啓介が居るのと居ないのじゃ、全然ちがうの」
「男はそれくらいがいい!
そんな事言っても、優美、張り合いなくて寂しいんでしょ?」
「まあね…」
――キッチンに立ってこんな風に誰かと会話をするのって、こんなに楽しかったっけ?
いつもは啓介に、宿題した?とか、早くお風呂入りなさい!とか、一方的に声をかけるだけの味気ない空間が、和寿くんの存在があるだけで違う景色にも見えるから不思議だ。
珈琲カップをトレイに乗せてテーブルまで運ぶと、彼はテレビの前に居て何かをジッと見つめていた。
「珈琲、入ったよ。
お砂糖とミルクは?」
「………」
「和寿くん?」
「…………っあ…?うん…」
やっと振り返った彼の目は僅かに泳ぎ、なんとなく顔色が優れないように見えた。
「…どうしたの?」
「あ…いや…この写真…」
私は彼の隣に歩み寄り、あっ…!と呟いた後、告げた。
「啓介が生まれてすぐの写真。
抱っこしてるのが、啓介の父親よ…」
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