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血の雨がふる、なんていう比喩はよく聞くが、実際その身になってみれば雨というよりは、目の前で水風船が破裂するかのごとく血が噴出してきて、俺の身体を深紅に染めるだけだった。
「汚ねえ」
頚動脈を抉るように切り裂く。こんなことをすれば、自分が血だらけになることくらいわかってはいたものの予想外に抵抗する目の前の男を黙らせるには、これが一番最良の方法だったのだと思う(事実、こいつは俺の手で死体に成り下がったのだから)。さっさと片付けなければ、口煩かったこいつは後々面倒なことを起こしてくれるに違いなかったことだし。
さて、こいつを殺した以上、こんな塵溜めのような部屋に用はない。血に塗れたコート(これ結構気に入ってたんだけどな)を脱ぎ捨てて、肉片を一瞥する。コートは量産されている、ごくごく一般的なもので、流行ってんのか同じ物を着たやつが街には山ほどいた。そう簡単に足がつくことはないだろう。それに、こいつは今、長期出張に出ていることになっている。ようは、発見が遅れるということで。肉塊になったこいつの腐乱死体がニュースで流れると思うと、思わず口角がつりあがってしまう。
落ち着け、俺。多分、今気持ち悪いくらい笑ってるんだろうな。
かちゃり、と音を立てて部屋の扉は閉ざされた。勿論鍵は勝手に拝借した。あぁ、楽しみだ。殺人犯って殺しの後はこんな気持ちなんだろうか。いや、殺人犯なんだけどよ。
(死体が腐るまであと)
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