宵越しの君に

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「七夕まで、あと2ヶ月半くらいかな。毎年七夕を楽しみにしているお子様な誰かさんのために、今年はベランダに沢山てるてる坊主吊るしてあげるよ」  こんな風にからかっているけど、本当は雨なんか降らなければいいと思っている。  もしも天気予報が当たって今夜雨が降ったら、このメッセージが彼女に伝わるのは、次に晴れた夜のことになるだろう。  必ずってわけじゃないけど、雨の日は返事が返ってこないことが多いから。  元々、強制的に始めたものじゃないし、返事だってお互いに強制したりはしない。ただ自由にやりとりを交わしていただけ。  ミナミのこと沢山知ってるつもりだけど、実際は、いつだって消えてしまいそうな、細い細い糸のような頼りない繋がりしか俺たちの間にはない。  そんな繋がりを、割れものを扱うように大事に大事に育んできた。  その日の出来事、今思うこと、感じたこと、そういう些細なことをお互いに語り合ってきた。  それでも、本当に伝えたい思いは未だに伝えられないし、伝えたところで何か変わるわけじゃない。  だけど、今はそれで十分だ。  このひとときが俺にとって大切なもので、それがあれば俺は十分幸福を感じる事ができるのだから。
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