宵越しの君に

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   ひとしきり話した後、「じゃあな、ミナミ」といつもと同じ言葉を置いて、録音を止めた。  ふうと息を吐くと季節外れの白い靄が微かに現れた。  寒い寒いとは思っていたが、本当に今日は寒いみたいだ。  空気は相変わらず湿っている。やっぱり今日は雨が降るのだろう。  カセットテープをケースに戻す。それから、ジャージの右ポケット弄り、家から持参した透明なポリ袋を取り出した。  そこにテープを入れ、雨に濡れないよう、口元を念入りに巻いてから、鳥小屋に戻した。  テープが鳥小屋の中に収まっているのを確認してから、俺は踵を返し、これまで走ってきた道を再び走りはじめた。  こうして俺の一日は始まる。  毎日、早朝、一つ宵を越えた先で俺を待つ彼女と、唯一話すことのできる30分。  俺にとって、一日で何よりも大切な時間だ―――。
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