宵越しの君に

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********  早朝のしんとした空気は、一日の中で一番冷たい。  吹き抜ける風には、やや湿り気があるけど、それは梅雨に感じるじっとりしたものとは違って、なんと例えたらいいか……。  そう、寝苦しい夏の夜に冷たいシーツ寝転がったような 、身体にすーっと沁みる心地よさを感じさせてくれる。  まだ日が昇りきらない空は、その日その日の季節や時間、天候によって色が変わり、蒼や紫や灰色や橙色、時にはそれらが入り混じって、絵具でかき混ぜた色水のように、様々な顔を見せてくれる。  いつもは騒がしいこの街に、静かな時が流れるこの時間が俺は好きだ。  そんな空気の中で、走っていると、心が洗われていくような気分になって、それがとても心地よくて、いつの間にか、早朝のジョギングは俺の日課になっていた。  随分、長い間続けていて、そのお陰か、体力には自信がついた。  念願は人格を決定す、継続は力なり。まさにその通りだ。  ジョギングの時、人通りが多かったり、雑音がうるさいといやだから、俺は出来るだけ静かで、穏やかな道を好んで走る。  本当は緑が多い山とかが一番ベストなんだけど、残念ながらそんな大層な自然はここらにはない。  だけど、俺なりに色んな道を探索して、草木が茂っていたり人通りの少ない小道なんかをいくつか見つけた。  今じゃそこらは、俺のジョギングルートだ。  そのルートをずっと進むと、とある小さな神社が人知れずぽつんと存在している。  随分入り組んだ道の先にある上に、社自体は、高い松の木に四方囲まれているもんだから、地元の人間でもなけりゃ、絶対に知らないだろう。  むしろ、地元の人間も知っているか、定かじゃない。
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