宵越しの君に

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 この社の裏には、背の高い松の木に紛れて、それらよりも少し低く太い一本の大木が佇んでいる。  今はもう花が散り、落ちた花びらが絨毯のように辺りに散っており、木の枝には黄緑色の小さな葉がちらちら生えはじめていた。  初めてこの木を見た時は、桃色の桜の花が綺麗に咲き誇っていた。  大きさはあるけど、それ以外はどこにでもありそうな、なんの変哲もない桜の木。  その木から生える太い枝の付け根には、ロープでしっかりと固定された鳥小屋がひとつある。  かつては色が塗られていたのか、青いペンキのあとがうっすらと残る鳥小屋の中には、鳥はおろか鳥を呼びこむ餌すらない。  小さな入口は大人の手がかろうじて入る程度の大きさだ。  俺はそこに自分の右手を入れた。  指先を使って中を探ると、ゴツゴツとした石や砂利に交じり、何か固くて角張った感触が手を伝った。  俺は後者を指で挟み、それを外に引きずり出した。
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