宵越しの君に

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  『ねえ、今年の七夕は晴れるかなあ、晴れるといいなあ。去年は雨降りだったでしょ? すっごく残念だったのよね。せっかくの誕生日パーティーも気分が滅入って台無しだったの。だからね、今年は沢山てるてる坊主を作っておこうと思うんだ。どう思う? ……って聞いても、たすくはどうせ「子どもっぽい」とか言って笑うんだろうけどー』  拗ねたような声を聞くと、口をとがらせる彼女を容易に想像できた、顔はわからないのに不思議だ。 『私ね、今日は、とても退屈な一日だったの。だから、あまり話すネタがないんだ。だから、聞きあきてるかもしれないけど、七夕の話で勘弁してね』  しょんぼりと落とした声に、俺はやれやれと肩を竦めた。  やっぱりお前は馬鹿だよ、ミナミ。話なんて、なんでもいいんだ。  ただ……ただ声さえ聞ければ、それでいいんだ。  おはよう、とか、こんばんは、とか、元気? とか。  そんな他愛ないことでいい。  一番最初は、本当に短い言葉のやり取りだったのだから。 『たすくはさいつも笑うけど、やっぱり織姫と彦星ってすごく素敵な話だと思うんだ。知ってる? 和物の御伽話の恋物語って、結構バッドエンドが多いの。かぐや姫にしても、雪女にしても、竜宮城にしても、結局は誰も結ばれないの。まあ、天の川も二人は離れ離れになっちゃうんだけど、でも、二人はずっと想い合ってる。でもね、1年に1度会えるかもわからない相手を想い続けるって、そうそう簡単に出来ることじゃないと思うんだ。本当に深く相手を愛してなきゃ、出来ないことだと思うんだ。もしも、そんな愛がこの世に存在するのだといたら、それってすごいことだと私は思うのね』  
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