宵越しの君に

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 ミナミの七夕論なんて、耳にタコができるくらい何度も聞いてるのに、いつも不思議と最後まで聞き入ってしまうんだ。  メッセージの長さは、その日によって短かったり長かったり色々だけど、時間なんて関係なく、この時はあっという間に過ぎてしまう。  どれだけ長く彼女の声を聞いても、必ずものたりなく感じてしまうんだ。  楽しい時間は早々に過ぎていく、ということなのだろう。  じゃあまたね、と明るい声を最後に、イヤフォンからの音声が消えた。  それと同時に、俺はカセットデッキの停止ボタンを押した。  話すネタがないとぼやいていたとおり、今日のメッセージはいつもより短かったな。  俺はしばらく空を仰いだ。何を話そうか、何から伝えようか、頭の中で整理して、それから録音ボタンを押した。 「ミナミ、こんばんは。まず最初に残念なお知らせ。今日は曇りです。天気予想大はずれ」  言いながら小さく笑った。   「今夜は雨だって。天気予報でいってたよ。ああ、勿論信憑性の高い天気予報ね」  ちょっと皮肉を言ってみた。こうやってミナミをいびるのも、俺の楽しみの一つだ。テープの向こう側で、彼女はきっと口を尖らせるのだろう。
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