無念

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あちこちに篝火が焚かれ、城内は、すみずみまで明るく照らされている。 「魚津は……落ちたか……」 上杉景勝は、報告を受けて、力なく呟いた。 時は天正十年。 天下を掌握せんとする織田信長が、武田を討ち果たし、西は毛利、北は上杉への侵攻支配を目論んでいた。 越後との国境近くにある、越中・魚津城は、景勝にとって、最後の防衛線だった。 だが、それも、織田重臣である柴田勝家らに包囲され、篭城を余儀なくされた。 魚津で、何度も援軍要請を訴え、戦い続ける諸将のため、景勝は、本拠地の春日山城を出て天神山城に陣をかまえた。 しかし、すでに二の丸は占拠され、戦を仕掛けることもできなかった。 さらに、越後へ接する信濃、上野にも、織田勢が構えており、そこから春日山への総攻撃態勢をとられてしまっていた。 景勝は、悲壮感に駆られながら、天神山の陣を引き払って戻ってきたのである。 (すまぬ……。然れど……) 半ば魚津を見捨てる形になり、落城を知らされた景勝は、禍つ夢でも見ているのかと思われた。 魚津の守将、十三人が自刃し、その姿をまざまざと織田勢に見せつけ、果てたということだった。 (武士たる道は……いや、だがっ) 生きていて欲しかったと、景勝は、胸内に広がる烈しい痛みに、顔を歪めた。 爆ぜる篝火の赤い火を見つめ、去来する無念さに拳を震わせたが、ふいに、たおやかな花の香りがして、景勝はおもむろに振り向いた。 そこには、毅然とした姿の妻・菊姫と、扶育している姫の紫衣(シイ)が立っていた。
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