第五章 転回

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 ここに来て妙案を思い浮かんだかのような朝倉の顔に、ゴロウも力強く頷いた。 「ここもばれてしまったのか・・・」  グランドキャニオン内でテロリストを指揮して応戦していたその男は、スペイン語でそう呟いた。  彼らはただそこに潜伏していただけなのだが、アメリカ政府も馬鹿ではない。テロリストが居れば空爆を行うだけの決断力はある。その点にとっては彼らは幸いだった。 「あんな奴らのために、こんなところで死んでたまるか。」  彼がそう呟いた直後、彼の腰に巻きつけられたベルトに刺された無線機から受信音が響いた。慌てた様子もなく彼はその無線に応じる。ただし使うのは英語だ。 「どうした?」 『敵が撤退を始めた!どうするんだ?』  無線機から響いてきただみ声に男は一瞬顔をしかめたが、その無線内容にすぐに彼はほほ笑んだ。 「上出来ですね。すぐに追撃をかけてください。この岩場なら逃げ場もそうないだろう。」  スペイン語ほどは上手くない英語だったが、無線の相手はその指令を聞いて雄たけびを上げた。 『よっしゃ、ぶち殺せ!!』  それを復唱するかのように、何十もの声、声、声。少しの間男が無線機から耳を離すほどの音量だった。 「とにかく、油断だけはしないでくださいね。」 『それぐらい分かっておる!奴らに、奴らに、あの地獄を見せてやる!!』  その決意の声を最後に無線は沈黙した。敵との戦闘にかかりっきりになっているということだろう。男は更に微笑を深めた。いや、それは嘲笑だったのかもしれない。 (これで、第一歩が築ける!)  そう思って、彼は今度こそ嘲笑した。  世の中の生きとし生ける者全てをあざ笑うかのように。
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