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そんな時、ナオに救世主が現れた。
「おい、ネヴァッ!! お前、ちょっとこっちさ来い!!」
少ししわがれた野太い男性の声だ。
ネヴァは何事かと首を捻った。
「なぁに、シド。私、怒鳴られるいわれは無いよ」
「なんだとォう?」
しれっと返したネヴァが声の主の要求に応じる気配がないので、あちらさんの方からやってきてくれた。
オレンジ色のツナギを着た恰幅の良い壮年の男だ。
頭が薄く、どこまでがモミアゲなのか分からない立派な顎髭が見事な口髭と繋がっている。
彼こそはシド・アバン。
単純に説明するなら熟練の機械屋だ。
シドはスパナで肩をとんとん叩きながらネヴァを睨み付けた。
「あれほどアームで殴るなと言っただろうが。マニピュレータは精密なんだ。歪みの矯正も楽じゃない」
シドの酒くさい息と共に吐き出されるクレームにネヴァは小さく首をかしげて両腕を広げてみせる。
微かに笑いながら。
「主砲の砲身へし折ってくるのとどっちがいい?」
「向きじゃない装備でのドツキ合いをやめろと言っとるんだ!」
赤い顔からヤカンよろしく蒸気を噴き出しそうなシドのスパナの動きを目で追うネヴァは、この分だとまだ大して酒は入っていないなと読んだ。
彼の酒癖は、正直言って余りよろしくない。
機嫌が良い時はネヴァやナオに胸を触らせろとか言い出して、死ねと返され二人に殴り飛ばされるし、機嫌が悪ければスパナを振り回しては危ない事をするなと言われてやはり二人に殴り飛ばされる。
つまり、ネヴァからすると今日はロートルを殴り飛ばさずに済みそうだ、と言うことである。
もうひとつ言えば、正気である分、今回のお小言は長くなりそうだ、と。
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