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「姫神様!?」
いつからそこにいたのか、ステンドグラス越しの色鮮やかな光を背に受けながら窓の桟に腰掛けていたのは、間違いなくアーシェだった。ただし、兵士達の位置からは逆光になっており、その表情までは見えない。
「すぐに魔法師達を呼びなさい。陣の中にその男を封じ、神子を地下牢へ」
「え……!?」
騒ぎの中、一人冷静なアーシェの言葉に声を上げたのは周りの兵士達だった。神聖なる護り神の手前、言葉を慎むも不安そうにお互いを見やる。フィオはやっと震えがおさまった膝を軽く叩いて立ち上がると、服についた埃をぱたぱた払った。
その動きはいつものフィオと変わりなく、すでに落ち着きを取り戻したようだ。
「お、恐れながら姫神様……この男は何者ですか。それに、神子様は何の罪で地下牢など……」
兵士の中でも年を取った兵士が、恐々質問する。その男に向かい、ふん、と鼻を鳴らすと、つまらなさそうに髪を指先でいじり始めた。
「――その男は……“世界の敵”だよ」
アーシェの言葉に、ざわッと兵士達が色めき立つ。相変わらず気を失っている男に、一斉に視線が注がれる。
「ッ……ぅ……ん……?」
ぴりぴりと空気が張りつめる中、緊張感を裂くように呑気な声が倒れた男から上がる。
「め、目覚めた……!?」
屈強ぞろいのはずの兵士が、おののいたように数歩後ずさる。
「……っ……た……」
「何か……言ってるぞ」
勇気ある兵士がガタガタ震えながら近付き、そっと耳を近付けてみると。
「…………お腹……すいたぁ……」
「……は……?」
言葉をかろうじて聞き取った兵士は一瞬、その意味を分かりかねて――
「ひ、姫神様! こやつ空腹ですぅッ!」
「ぇえい取り乱すな! みっともない」
更に動揺する兵士達を一喝し、ふわっと空に浮いたと思ったら、そのまま男の真上で仁王立ちしながら叫ぶように言い放った。
「おい、いい加減起きろ!――エイダ=フォン=トゥーイット!」
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