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「ボクには……耐えられない……!」
しゃらんっ、と銀の髪飾りが揺れる。苦しそうに紡ぎ出す言葉が、アーシェの胸の内を語っていた。
「お前は解放してはならんものだ、エイダ。忘れているだろうが、お前の“力”は、確かに危険だ」
「……まさか、アーシェさん」
「――そうさ」
カップを戻し、椅子を引いて立ち上がると、エイダの方へとふわりと浮かんで近寄った。真っ白なローブの襟元を、乱暴にぐぃっと掴み上げる。
「フィオは、隣国になんか絶対に渡さない。そんな惨めな死なせ方をする位なら、ボクがこの手で殺してやる!」
ぶわァっ! と強烈な、狂気じみた殺気がアーシェから叩きつけられる。それまで遠巻きに見守っていたオルディプスも、尻尾を翻して逃げ惑う程の強烈な感情――
「いけません、アーシェさん!」
怒りに流され、加減を忘れギリギリと胸元を絞め上げてくるアーシェに、しかし怯みもせず負けじと声を張り上げた。
「それじゃあ誰も、救われない! 今すぐ死刑を止めに行かないと――」
「だったらどうしろと!?
フィオを献上するのを止め、隣国を見捨てるのか! それとも、フィオを贄に奉るのか!」
「違います! 双方救う道はあります! 神が、神様だけは、間違っちゃダメなんです!」
「双方、救う道……!?」
途端に、絞め上げる力が緩まる。その隙に小さな手からスルリと逃れると、げほごほと咳き込んだ。
「……僕が、行きます」
目の端に涙を浮かべ、ぜぇぜぇ言いながらも、エイダははっきりとアーシェに言い放つ。
「僕が隣国の神様にお会いして、事情を説明します。どうしても贄を立てなければならないというのなら、せめて次期汰王が見つかるまで待って頂くよう説得してきます。
だから、死刑は即刻中止して下さい!」
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