687人が本棚に入れています
本棚に追加
「神に、頼む……?」
それは、神であるアーシェには思いもよらない考えだ。まるで頬をひっぱたかれたように、ぽかんと情けなく口を開けた。
「はい。だって、汰王殺しの罪は償わなくっちゃいけないけれど、民にそこまでさせる汰王様にも、過失はあったと思うんです」
それに、とよろよろ立ち上がりながら、言葉を続ける。
「そんな人に政治を任せておいた神様にも、責任があると思いませんか?
神様だけが、汰王を決められる。ならば、神様にだって任命した責任ってのはあるはずです」
「お前……神に、いちゃもん付けようってのか!?」
「やだなぁ、いちゃもんだなんて。ただ、神様でも間違いはあるよねってことを認めてもらいたいだけで」
へらへら笑って、何故か手をぱたぱた振るエイダ。アーシェは思わず、それを世間一般はいちゃもんって言うんだよ!――と心の中で毒づきながら、改めてエイダの言い分を考えてみた。
いや、初めてその考えに至ったと言っても間違いではない。護り神は個々に他国の神と交流することは、許されていないだからだ。
「……仮にお前が直談判しに行くとして、だ」
「相手が、聞き入れるか分からない?」
言葉を先読みしたエイダの返答に、宙にあぐらをかいて腕組みしたまま、そうだ、とアーシェは応じる。
「だぁいじょうぶですよ、アーシェさん。僕に任せて下さい!」
どこからそんな自信が湧いて出るのか、エイダはぐぃっと胸を張って、勢いよくドンっと拳で叩いた。
しかし勢いがよすぎたのか、肺にまで衝撃が伝わったらしい。情けないほどにげぇっほごほごほとむせた。
「……ホントに大丈夫か?」
呆れ返ったようにアーシェが尋ねると、げほげほ咳き込みながらエイダは首を縦にブンブン振って見せる。
「もちろん。何せ僕は――世界の敵、ですから」
最初のコメントを投稿しよう!