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そんなことを言っていつものように笑うエイダは、しかしどこか寂しそうに見えた。
「……分かった」
はぁー、と一年分位の溜め息を腕組みしたまま重々しく吐くと、その美しい髪をがしゃがしゃと乱暴に掻いた。
どうせ、このまま時が経てばフィオの処刑は免れようがないのだ。ならば、多少荒々しくても可能性がある方へ賭けるしかない。
「どうなっても知らんぞ、全く……その代わり、条件がある」
――こんっこん。
「あ、あのぅ。入りますね」
城の中の一室、余り使用人も来ないひっそりとした角部屋の、しかしよく陽があたる気持ちの良い部屋。その部屋には、フィオが幽閉されていた。
はい、という返事を待ってドアを開ける。鍵は掛かっていない。思わずちらりと、ドアの横でビシッと人形のように立っている兵士を見やった。
「お邪魔しますねぇ、フィオさん」
そう言いながら入ってきた彼の姿を認めて、フィオははっと息を呑む。
「改めて……はじめまして、ですよね。僕はエイダ=フォン=トゥーイット。よろしくお願いします」
フィオの僅かに怯えた瞳に気付かない訳でもないのに、エイダは全くそこには触れず、ニコニコ笑いながら手を差し出した。フィオの赤い目が、その手を一瞥する。
「私、は……フィオレンティーナ=レガルタス。フィオ、とお呼び下さいませ」
おずおずとエイダの手を握り返すと、エイダはなぜか嬉しそうに更に笑みを深くする。
「いやあ、こんなに美しい方に握手してもらえるなんて、ぼかぁ幸せだなあ~!」
照れ隠しなのか、空いた片手で頭をかきながら、握手したままの手をぶんぶん振った。
「ああああの」
「あぁっ、すみません! 可愛い方を見るとつい」
華奢なフィオが振り回されているのにようやく気付き、慌てて手を離す。
(このお方……本当に同一人物?)
背の高いのを気にしてなのか、若干猫背ぎみの長身。苦労を知らなそうな、長くて細い滑らかな指。よく手入れが行き届いている、腰まで伸びたさらさらの金髪。
こうして太陽の下で見てみると、成る程黙っていればかなりの美丈夫だが――それだけだ。あの時味わった、魂をえぐられるかのような生物としての恐怖心は一切感じられなかった。
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