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夜はすっかり明けていき、炎に包まれた一日は夢のように通り過ぎて行った。旅支度を終えたエイダとジークが、改めてラーンとバベルの前に立つ。
「すまぬな、本当は護衛について行きたいんだが……汰王も元帥もおらんこの城を、ミッドガルムの民に返さねばならんからな」
「はい。僕らなら大丈夫ですよ、きっとフィオさんを助けて帰ってきます」
にへ、と人の好い笑顔を浮かべて、バベルと固い握手を交わす。
「エイダ。ここから四日ほど馬で行ったところに、針葉樹の森がある。その先の入り江に、わらわの眷属たる娘達が待っておるからな。これを持ってお行き」
ラーンが進み出て、エイダの手に小さな箱を手渡した。許可をもらって開けてみると、それは小さなオルゴールだった。しかしネジらしきものが見当たらない。
「これは?」
「わらわの妹が、これのネジを持っておる。合わせて音が鳴れば、それが本物じゃ」
「本物って……」
「なぁに、人魚どもは悪戯好きで人を騙すのが生き甲斐のようなものでな。エイダは“見抜けない”だろうから、きっとからかわれるぞ」
はっはっはと楽しそうに笑って、気楽にぽんと肩に手を置かれる。なんだか分からないが、確かにラーンの妹というのは油断ならない気がした。思わずエイダの笑顔が引きつる。
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