理解不能、馴合

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「国にはそれぞれに護り神がいる。汰王が居なくなったのはその国が何か“禁忌”を犯したからだ。神との約束を破ったこと、何故お前が責任を取る!?」  どんッ! と、様々な苛立ちと共に小さな拳を大地に打ち付ければ、拳を中心にぶわっと一陣の強風が駆け抜けていった。  ――そもそものきっかけは、誰にも分からない。  国には豊饒を約束する神がそれぞれに存在する。神がいる場所が国となり、神が王となり官を集め、国を治める。  だが実際のところただ漠然と「富めよ」という神はあくまでも守護神という位置付けで、人間のリーダーともいうべき“汰王”(たいおう)という地位の人間が実質的な王となって国を運営する。  一見飾り物な神だが、汰王と神の間に交わされる秘密の“約束”があり、それを守っている間は神が国を富ませる。しかしその約束を破ったり、“禁忌”と呼ばれる罰則事項を犯せばたちまち神は死に、その国も滅びるのだ。――何も、手を打たなければ。 「隣国は何百年も続く大切な間柄。私達の代で見捨てる訳にはいかないわ」  さも当然のように語るフィオに、しかしアーシェはぎりッと歯を噛む。 「――お前は、ボクの"贄"だろう!?」  アーシェは強く、ぎゅぅっと紅い髪を握りしめる。フィオは眉ひとつしかめず頷いた。 「ええ。禁忌を侵した汰王の代わりに、貴女に血肉を捧げる役目。それが私の存在意義」  さも当然のことのように、フィオは言い放つ。そこに恐怖心や慢心などは微塵も混じっておらず、ただ真実をありのままに口に出していた。  フィオの特殊な紅い髪は、神の流した血で染められたのだと言われている。  元々フィオの一族は「黄金の一族」とも呼ばれ、通常は金の髪を持って生まれる。家族単位の小さな集まりで、旅をして定住せず暮らす。しかし何百年かに一度、紅い髪の女児が生まれてくるのだ。赤い髪の娘は災いをもたらすと恐れられている反面、唯一神の赦しを得られる人間として、珍重されている。 「でも、汰王のご命令ですから」  微笑みながら言う彼女の瞳は、心の揺らぎを映して切なく輝いていた――
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