流転の先に

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「まぁ、冒険者ってのは、大前提が自分の身をいかに守れるかってのが重要さ。 生きる術に長けた者だけが生き残る。  古参の奴らは皆そうだね。 ある程度『テラー』の生息域は知れてる。 けど、魔素の流れや濃度なんて日増しに変わるからね。 万全を期しても、イレギュラーは起こるものさ。 これまで、何人の冒険者が帰らなかった事か……  臆病者程生き残る。 冒険者には、勇敢な奴こそ向かないね」 死と隣り合わせの未開拓領域。 踏み込むには、やはり相応の覚悟と勇気がいるだろう。 けれど、無謀と勇敢さを履き違えてはいけない。 己れを知り、弁える精神があるからこそ、リスクを背負えるのだ。 「……自信と過信。  勇気と勇猛。  難しいですね」 「そうだね。  境目なんて曖昧なもんだ。 人ってのは、意外と自分自身が分からないもんだからね」 多数の冒険者を見てきただろう女性は、過去を反芻しながらも、目の前の少年を注視していた。 まだ、幼さの残る容姿とは裏腹に、立ち居振舞いや挙動は精練され、早熟な印象。 人は、様々な経験を糧に成長していくもの。 であるならば、この少年はいったいなんなのか。 とても年相応には感じられない。 「お兄さんは不思議だね」 「え?」 「容姿とは裏腹に、成熟した空気を感じるよ。 まぁ、たまに見た目じゃ年齢の測れない奴も居るから、外見は充てにならないけどね」 女性の物言いを前に、アリッシュは苦笑を漏らす。 確かに、その事例を知っていた。 養父であるジェネクス・ラムドリアや、学校で担任であったフローレイ・ヤナハなどが該当する。 魔素は、魔法の源となると共に、生命力を向上する働きがある。 故に、『テラー』は魔素の濃い地帯を好む傾向にあった。 魔術の素養に特化している者の中には、老化の遅い人物が確認されている。 研究者の見解としては、その特性の影響を受け、細胞の劣化速度が減衰しているのではと言われていた。 「僕は違いますよ。  魔術の素養が無いので」 「うん?そうなのかい……?  あたしゃてっきり……」 少年をまじまじと見据えるまま、女性はいぶかしむ。 自身の直感に従うならば、とても只人とは思えなかったからだ。
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