流転の先に

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夕暮れにはまだ早い、未だ活気溢れる午後の昼下り。 窓辺から覗ける、生気に満ちた喧騒の伝わる大通りを眼下に、少女は酷く物憂げだった。 無気力に椅子に身を預け、只、時間を浪費している。 部屋の片隅に立て掛けてある、養父の形見の『エスタリカ』をメイはふと思い出し、視線をゆるりと這わせて見詰める。 黒の鞘に収められた、柄や鍔までも白の半透明な、異端の長剣。 それを映す少女の脳裏には、勇ましく情愛に溢れた養父と、今その身を案じてならない、愛しき少年の姿が過っていく。 少なからず、外交官としてレゼンブルムに赴いて来た、あの2人の女性の人柄は知っている。 彼女らがアリッシュに危害を加える可能性は低いだろう。 けれど。 謁見するのは、この国の国王だ。 ラミラリーダ王国の国王を惨殺し、自らが王としてシルバニアを設立した者。 世界に散らばる、戦火の始まり。 彼を恐れ、憎み、蔑む人間達は、混沌の魔王と吐き捨てる。 そのように伝え聞く人物の事を、自分は何も知らない。 シルバニア王の本質など知る由もない今、1人王城へと向かった少年が気掛かりでならなかった。 そして、何故……と。 自責の念もまた、ある。 何故アリッシュを、1人で行かせてしまったのか。 不安になるのは分かりきっていた筈。 前の自分なら、意地でも共にした筈だった。 時間はあった。 幾らも自問自答した。 自分は、まだ恐れている。 自分を映す世界が怖い。 前の自分を知る彼女らの居る場所には近付きたくなかった。 自分を気遣い、1人で向かうアリッシュを、自分は只見送り、何処か安堵していた。
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