流転の先に

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大通りに面した、宿泊先の宿に戻ったアリッシュ。 城に向かって、かれこれ4時間余りが経過している。 時間を掛け過ぎたと、今更ながら苦慮してしまう。 1人残された少女が、不安にならない筈がない。 遅ればせながら、メイの様子が気掛かりになり、早足で食堂の先にある階段へと向かった。 その最中、不意に視界の端に映った人影が気になり立ち止まる。 食堂のカウンター席に腰掛けている、その後ろ姿。 髪の長さや見姿が、良く知る少女に酷似していた。 だが、その頭髪の色は、生え際が白く、毛先に向かうにつれて黄緑へと変化している、特徴的なもの。 幻覚魔法を使用していれば、見える筈のないその色。 アリッシュはそれが誰なのか確信しながら、逸る気持ちを抑えられずに、急ぎ足で彼女の元へと歩み寄る。 「……メイ?」 「あ……アリッシュ。  お帰りなさい」 待ち人に気付いた少女が振り返り、瞳孔が縦に長い銀の双眸を向けて来る。 その表情は、やや不安げな色を見せている。 それでも、落ち着いた微笑を湛えていた。 「……ただいま。  ごめん、待たせたよね」 「ううん、大丈夫。  それより、どうだったの?」 「こっちは問題無いよ。 相手方の応対も紳士的だったし、危険もなかった。 お互い、腹の探り合いって感じかな? 兎に角、問題なく過ごせそうだよ」 「そっか。  無事に終わって良かった。 これからについてとか、何か言われた?」 「何かあれば、行政の方で対応するってさ。 国としては、多分現状維持で静観するつもりなんだと思う。 でも、ヘイベルン将軍辺りは、たまにフラッと現れそうだね」 「ああ……確かに。 あの人は自由奔放っぽいよね。 何の気なしに、突然来そうかも」 無理なく、メイは自然な仕草で言葉を交わす。 が、アリッシュとしてはどうにも気になる。 自分の前でも滅多に解かなかった幻覚魔法を、どのような心理変化なのか今は解除しているのだ。 メイが、前向きに努力しているのが伝わる。 それでも、手指を隠すグレーの手袋は着用したままだ。 それを思えば、理由をこちらから聞くのは躊躇われた。
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