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城に近い区域に辿り着いた頃から、不明な……漠然とした意識のようなものを感じていたのだ。
その正体は判然としない。
だが、自分だけを対象にしているというより、その感覚は、広域探査魔法の範囲内に居るような状態に酷似している。
防衛機構の一種なのだろうとは思うが、抑えていても異能で感じ取れてしまうそれが、頭の片隅に引っ掛かっていた。
城に入る前に通った、堀に掛けられた橋や城壁にも、恐らくなんらかの術式が組まれているのだろう。
シルバニアには敵が多い。
それを思えば、防備に手を尽くすのは当然の事と言える。
けれど……共生を謳い、人の営みを尊守する国が魔法技術に秀でている事実は、綺麗事では済まない現実を如実に物語っている。
シルバニアという国は、アリッシュから見ても、正に理想的な国のように思う。
それでも、完璧とは言い難いのだ。
真の安寧とは何なのか。
どのように歩めば辿り着けるのか。
つい、答えの見えない自問自答が脳裏を這い回る。
そして、やはり思うのだ。
シルバニアの王は……自分と何を語ろうと言うのか。
問われて窮するのは、無論シェスターについて。
しかし、そうでないなら?
結果的に英雄と示唆された自分と、他国から魔王と呼ばれるシルバニア国王。
その背景だけを汲み取った場合に交わされるものとはなんだ?
正直、それが最大の謎であり、疑念であった。
「テイカー様。
御茶菓子などは如何ですか?」
「……あ、その、ありがとうございます」
思考に囚われていた最中、使用人の女性がカップの傍に焼き菓子の幾つか盛られた皿をテーブルに置いてくれる。
それにやや遅れ気味に返事をした、正にその直後。
閉められた部屋の扉が、乱暴に内側へと開かれた。
にょきりと、入口から足が生えている。
どうやら、誰かが扉を蹴り開けたようだ。
突然の荒い物音に、使用人女性の肩が跳ねる。
「邪魔するぜ~」
ずかずかと入室して来たその人物は、真紅の髪と瞳を持つ、耳の尖った亜人の青年だった。
着崩した朱色の刺繍のあしらわれた白のシャツ。
両手を紺のズボンのポケットに突っ込み、何やら横柄な態度を取って歩んで来る。
「へぇ……お前がねぇ~」
座ったままで反応に困っているアリッシュの前まで来た青年は、その表情を繁々と覗き込んだ。
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