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「……」
立ったまま、着席しているアリッシュの顔を前傾姿勢で眺める、赤髪の青年。
無駄に眉間に皺を寄せ、顎をしゃくれさせている。
どうやら、ガンを飛ばしているつもりのようだ。
度々角度を変え、少年を凝視し続ける。
「え……っと、あの……?」
一方のアリッシュは、大いに戸惑っていた。
極力目を合わせないように努める。
無駄に柄の悪い、目の前の青年が王という事はあるまい。
そう思いたい。
ならばこの青年は誰なのでしょう?
使用人の女性もオロオロしている。
困惑の呈から抜け出せずにいると、新たに現れる人影。
灰色の長髪が艶やかなその人は、部屋の入口で顔をしかめ、廊下に向かって何やらジェスチャーする。
その一拍後、彼女は青年の背後に突如として顕れ、平手で後頭部をひっぱたいた。
「いって!?
何しやがるてめえ!?」
青年が喚いて振り返る。
平手の割に鈍い音がした。
地味に痛そうだ。
「馬鹿じゃないの?」
「何でだよ!?
只見てただけだろが!」
青年の行動が奇怪に映っていた灰髪女性が、溜め息混じりに罵り、青年がそれに抗議する。
すると、灰髪女性は眉間に指を当てた後深い溜め息を吐き、次いで腕を組んで青年を冷たく睥睨し出した。
「……馬鹿じゃないの?」
「何で2回も言うの!?」
心底呆れ顔の灰髪女性と、まるで心当たりがないと言いたげな青年。
別個のリアクションを示す2人を前に、アリッシュは色々驚かされっぱなしだった。
「済まない。
内の者が失礼した。
イバイロ、接触するにしても礼節は必要だろう」
応接室に、整端な佇まいの男性が入室する。
黒。
第一印象はそれだ。
薄手の黒のジャケットにスラックス、ラミラリーダ人には珍しい、黒の頭髪と瞳を覗かせる。
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