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「はいはい。
もうその辺にしておこうね。
テイカー君が困ってるじゃない」
竜人の後、最後に入室を果たした紺髪の快活な女性が、相も変わらず口論している2人を諌める。
一見すると、かなり激しく罵り合っていたように見受けられたが、その実、感情的になり過ぎてもいなかったようだ。
その証拠に、やんわりとたしなめられた程度で2人は罵声を止めた。
「騒がしくて済まんな。
どうも、皆君に興味があるようでね」
「い、いえ……恐縮です」
穏和に語り掛ける黒の男性に対し、アリッシュはどう返答したものかと苦慮してしまう。
そんな少年の緊張を少しでも解そうと、黒の男性は微笑みかけ、対面のソファーに座った。
「今回、急な呼び立てに応じてくれた事、感謝する。
俺が、シルバニアの国王、ギャザリン・ホーク・シルバーツだ。
宜しくな」
穏和で気さく。
しかし、それでも堂々と、己れの立場を明確に示す。
国王という自分を、延いては国そのものが軽んじられる事のないように、只名乗るだけであっても、そこには確かな威厳が込められていた。
「……初めまして、アリッシュ・テイカーです。
お招き頂き、ありがとうございます」
そんな機微を感じながらも、少年は失礼のないように、言葉を選び口を開く。
とは言え、貴族や王族といった相手への応対など知らない。
その為に、俄仕込みの敬語に留まっている。
それに不快さを顕す事なく、ギャザリンは頷いてみせた。
「まずは、この場に居る者の紹介と行こうか。
レゾにエクストラとは面識があるだろうが、今一度紹介に預かる。
シルバニアの王妃であり、外交担当のエクストラ・シルバーツだ」
「お久しぶり。
レゼンブルムではお世話になりました。
宜しくね」
ギャザリンの紹介を受け、紺髪の女性、エクストラが柔和な笑みを咲かせ、優雅に一礼する。
「次に、三軍の将であり、主に国防を担当するレゾ・アリアーダ・ヘイベルンだ」
「昨日振りね。
宜しく」
腰に手を当て、艶やかな佇まいのレゾが、雅に微笑む。
「続いて、三軍の将であり、治安維持を主に担当する、イバイロ・クリムゾアだ」
「……」
国王に紹介されたイバイロではあるが、何故か腕を組んで憮然と構え、口を開こうとはしない。
只、アリッシュを険しく見据えるのみ。
警戒色の濃いその眼差しは、敵意に近いものがあった。
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