邂逅の時

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疑心暗鬼に駆られるアリッシュを他所に、ギャザリンは気に留める風もなく続ける。 「まぁ、イバイロは飽くまで巡回だと言い張るがね。 レゾは……単純に街に降りるのが好きだからかな? それでも務めは果たしているし、何より国民から好かれている。 王都でもし生活するのであれば、接点も生まれるのではないかな?」 「あ、あの……っ!」 「ん?  何かな?」 まるで世間話でも始めそうなギャザリンへ、つい声を上げてしまった。 穏和で良識的な対応を崩さない彼に、業を煮やした結果だ。 それでも、ギャザリンの態度は変わらない。 唐突に会話を切り、失礼かとも思うが、少年は聞かずにはいられなかった。 僅かな逡巡の末に、それを口にする。 「……何故、今日僕を呼んだんですか? 何か、目的があったからでは……?」 何かしらの本題を切り出されるものと、胸中で身構えていたアリッシュ。 しかし、ギャザリンからは、何もそうした雰囲気を感じない。 それがどうにも不可解でならなかった。 「目的、か……」 問われたギャザリンは、暫しの間思案する。 その表情と伝わる感情からは、困惑が読み取れる。 「……済まない。  特に無いんだ」 「……え……?」 アリッシュは、幾通りの答えを想定していた。 けれど、それは流石に予測してはいなかったもので。 思わず、当惑してしまう。 「強いて言うなら、今のこの状況そのものが目的、かな?  君と会い、言葉を交わす。  会話の内容は何でも良い。 只それだけで、それ以外に別段他意はなかった」 それだけ……? とりとめの無い、雑談を交わす為? なんだそれは……? 「俺の感情を端的に表すなら、興味……だろうか。 君という特別な存在が、俺達の国に来た。  どのような人物なのか? 会って話してみたいと思うのは、至極真っ当な行動理由にはならないかな?」 苦笑を浮かべ、ギャザリンは少年を見据える。 ここでようやく、アリッシュは少なからず理解する事が出来た。 確かに、興味や好奇心でというのは分からなくもない。 救国の英雄と語られる自分は、それらの標的に十分成り得る。 けれど、シルバニア王がそれを口にするとは思っていなかった。 ギャザリンの先程の発言は、予期出来ない程に、アリッシュにとっては意外だったのだ。
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