邂逅の時

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自分にだけ目線が向いているというのなら、ある意味では乗り切り易い。 会話が目的というのは、恐らく本当なのだろう。 しかし、それは判断材料の少なさから来るものだ。 無害なのか有害なのか、有益なのか不利益なのか。 英雄という存在が未知数であるからこその対話だ。 故に、この対談が、自分の評価並びに判断基準となるのだろう。 そこまで憂慮しながら、アリッシュは態度を変える事なく、そのままのスタンスで乗り切るつもりでいた。 へりくだれば足下を見られ、不作法ならば貶められる。 微妙な駆け引きではあるが、権力者との線引きは必要不可欠と考えていた。 馴れ合えるとは、思っていない。 「確かに、なるのかもしれません。 でも、僕は……誰かの興味を引きたかった訳ではありませんでした。 単純に、只、必死だっただけで。 僕は、僕の望むままに行動しただけです」 それでも、言葉を選びつつ本音で語る。 自分自身の事だ。 偽る必要性は薄い。 「俺も同じだよ」 「……?」 そんなアリッシュに、ギャザリンは共感の意を示す。 結果は対極的でも、その行動理由は似通っていると感じた。 「俺も、必死だった。 自分のエゴを貫くには、それしかなかった。 だから、君の気持ちはなんとなく理解出来る」 アリッシュは、ギャザリンから自責の念を感じた。 自身の行いを責め、罪の意識を拭い去れてはいない。 それでも、彼は、同じ境遇に立たされたならば、恐らく同様に刃を振るうだろう。 それだけの覚悟があり、また後悔もしていない。 彼は、己れが悪であると冷静に認識しているのだ。 「僕も、貴方の気持ちは分かるような気がします」 アリッシュは自然と、そう口にしていた。 お互いに発した言葉は少なく、中身などほぼ語っていない。 両者はそう意識して発言していたのだが、不思議と……互いの想いを垣間見た気がした。 その後、当たり障りのない雑談に終始する。 シルバニアに対する印象。 今後の予定。 レゼンブルム共和国での日常など。 アリッシュとしては、無難な解答で済ませている。 特に今後についてだが、何せこの地に着いたばかりだ。 予定など、立ってはいない。 それでも、口にはしないものの、胸中では漠然と考えてはいた。
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